9月3日に現米国副大統領であり、民主党の次期大統領候補あるカマラ・ハリス氏が日本製鉄によるUSスチールの買収に反対を表明しました。
「 Harris voices opposition to Nippon Steel’s buyout of U.S. Steel (ハリス氏、米国スチールの買収に反対を表明~大統領候補、ピッツバーグで「米国の鉄鋼会社は重要」と発言)」
このピッツバーグの集会でハリスは「USスチールを”historic American company(歴史的な米国の会社)”と呼び“U.S. Steel should remain American-owned and American-operated, and I will always have the backs of America’s steelworkers.(USスチールはアメリカに所有され、アメリカの運営であるべきです。そして、私は常にアメリカの鉄鋼労働者を支援し続けます。)”」とも発言しています。
米国の労働組合「ユナイテッド・スチールワーカーズ」はこの買収に反対の立場を取っており、政治的にセンシティブな問題になったようです。
共和党のトランプ候補も2月の段階から買収に反対を表明していました。
「NHK トランプ氏「絶対に阻止」 日本製鉄の巨額買収計画はどうなる」
今回改めて見ていると、USスチールの本社はペンシルベニア州のピッツバーグということを聞いて、合点がいきました。
ペンシルベニア州といえば、米国の大統領選を左右するスウィング・ステートの中でも重要と言われています。ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州が選挙で注目されますが、特にペンシルベニア州は選挙人の数が3州の中でも最大です。この日本製鉄による買収に反対したのは表向きはそれが米国の産業や雇用にとってどうかという表現をとっていますが、要は選挙に勝つための党や個人の政治的な目的なのは明らかでしょう。
実際に、ブルームバーグのインタビューで、ローレンス・サマーズ元財務長官はこれに異議を述べていました。「この取引を阻止することは正当な国家安全保障や合理的な経済的根拠はありません。むしろ、米国の鉄鋼産業に他の方法では得られないほどの大量の資本注入をもたらすため、国家安全保障を強化するものと私は信じています。・・・・・この取引を止めたり、特定の鉄鋼会社がアメリカの所有者でなければならないという原則を受け入れることは、大きな誤りを犯すことになります。(Chat GPT訳)」
財務長官も務めた方なので米国の利益を考えて発言されていると思います。
そして、何が通貨安を想起させるかというと、この合理性よりもその瞬間、民衆にとって耳聞こえの良い政策に流れる動きがいわゆる「ポピュリズム」の一つの現れと感じられ、これが財政にも適用されていくのだろう、と連想させられました。
これを踏まえて日本の財政ですが、よく言われることですが、普通国債残高は2024年末時点で1105兆円となる見込みのようです。
日本政府は国債を発行することで税収よりも非常に多くのお金を使ってきた訳ですが、これはいつか何等かの形で国民が返さなければならないことになります。
基本的には、以下の3択になると思われます。
- 政府支出を削減する
- 増税で税収を上げる
- 放置してインフレさせる
1番の政府支出の削減は、社会保障費や公共サービスの削減になりますが、断トツに大きいのが社会保障費(33.5%)ですから、高齢者が多い人口構造上、政治的に触れられることのない分野になってしまっています。
2番の増税も甘んじて受け入れよう、という国民は少ないでしょう。「それなら、その前に支出を削減してよ」という話になり、1番に戻ります。(会社員の社会保険料で一部見えにくい形では上げているようですが)
よって3番の放置してインフレ=通貨安になるのだろうな、と思います。どの国でもポピュリズムの勢いは増しているように見えますから、この問題は日本だけではないでしょうが、相対的に対GDP比での債務残高が大きいので、特に日本において顕著に起こりうると思います。
将来のために辛いことを我慢する政策は多数決の民主主義では困難で、目先が楽な方、楽な方へと流れていくのだろうと思います。
従って、今後も投資や資産配分については「あらゆる国で通貨安が進む傾向、特に日本」を前提として考えておいた方が良いと思います。
為替は目下数か月前と比較して円高に来ていますが、長期的にはこの問題に回帰していくのではないでしょうか。
*サマーズ元長官の経歴を見ていたら、16歳でMITに入学して28歳で史上最年少ハーバード大学教授に就任された俊秀なのですね…。