世界の「脱ドル化」と言われる中、ドル以外の通貨を持っておくべきか

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世界経済において、これまで基軸通貨であったドルの地位が揺らいできていると言われています。米国内ではこの”De-Dollarization(脱ドル化)”に関する議論は活発になっており、ドルの独占的な地位が今後脅かされるかどうかについて色んな著名人が発言しています。


今日はその中でもブリッジ・ウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオの発言を元に世界の脱ドル化の可能性と、それに対して個人投資家が備えるべきかということについて考えていきたいと思います。

レイ・ダリオの警鐘

ブリッジ・ウォーター・アソシエイツは世界最大規模を誇る米国のヘッジ・ファンドで2021年ヘッジ・ファンド運用資産残高ランキングでは第1位を獲得しています。また、創業以来の運用平均が10%以上であるなど素晴らしいパフォーマンスを残しています。私は個人的にその創業者レイ・ダリオが好きで発言をフォローしていますが、彼はたびたびドルの優位性が失われることについて警鐘を鳴らしています。

ドルの優位性の低下の理由として挙げているのは主に「国際取引における中国の台頭」と「ドルの武器化」です。

以下、その2点について見ていきたいと思います。

国際取引における中国の台頭

現在のところ、ドルは外国為替取引の88%で使用されています。しかし昨年では、人民元が国際決済における割合として初めて、豪ドルやカナダドル、スイスフランなどを抑えて5位に浮上したということでニュースになりました。

出所:日経 2022年4月時点

中国は、2014年の中央経済工作会議で「人民元の国際化を着実に推進する」ことを正式に目標に掲げ、特に最近はドルを介さない取引を拡大しています。この動きはドルの覇権に対する挑戦ともいわれています。3月にはブラジルとの間で両国の通貨を使って直接取引ができる仕組みを創設しました。ロシアとの石油取引でも人民元が使用されています。

サウジアラビアやイラクなどもドルを介さない取引に前向きで、今後も中国経済の台頭と共に、世界的にドルの代わりに人民元を使う取引の拡大が予想されます。

ドルの武器化

外貨準備の観点では、もともと2000年以降、世界の外貨準備におけるドルの割合は継続して低下してきていました。2000年には70%超あったものが、近年では50%台になっています。

出所:毎日新聞 週刊エコノミスト

それに加えて、米国は昨年のロシアによるウクライナ侵攻以降、その制裁としてドル資産の凍結を行いました。いわゆる「ドルの武器化」です。これにより各国政府はドルを保有していることにリスクを感じるようになりました。ロシアはその外貨準備と金のうち、約半分にあたる3千億ドル(約35兆4千億円)分が、米欧日などによる制裁で凍結されたとしています。

その様子を注視している国々は、自分たちも米国と問題が起こった時にはロシアと同様に自分たちの資産も凍結されるのではないかと考えます。そのような国々はドルの保有残高を減らしました。上記チャートは21年頃までですが、ロシアに対する経済制裁が始まってから世界の外貨預金に占めるドルの割合は55%から47%に低下し、その前20年間の10倍の速さで進みました。特に米国と距離を置く国々を中心に今後も脱ドル化が進むことが予想されます。

これはドルの武器化が諸刃の刃であると言われる所以です。

イーロン・マスクもツイッター上で、あるエコノミストが”de-dollarization is real and is happening fast.(脱ドル化は現実のもので早いスピードで起こっている)”とした動画の中で、”If you weaponize currency enough times, other countries will stop using it.(通貨を何度も兵器化すれば、他国はその通貨を使わなくなる)”と苦言を呈しています。 

「ドルに代わる通貨は見当たらない」が妥当

では人民元が今後米ドルに代わって基軸通貨になっていくのでしょうか。

その点では懐疑的な論調が多いです。
理由は、中国本土では外国人による人民元建て株式や債券の売買は原則禁止されていたり、国際送金は資本取引でないことを証明するための書類の提出が必要になったりと、ドル・ユーロ・円と言った通貨と比較した時のその使い勝手の悪さが挙げられます。

そもそも中国は国境を越えた自由な資本移動の制限を行っており、為替相場もドルにペッグして管理しています。ドルに比べてこのように管理された人民元は流動性が大幅に劣りますし、金融の世界では流動性は言うまでもなく重要な要素です。

OECDの元で資本移動の自由化を進め、通貨の交換レートを変動相場制で決めている民主主義・資本主義の国々が特定の政府の管理が強く働く通貨を基軸通貨として第一選択肢とすることは考え難いと思います。

人民元の存在感は中国の経済成長と共に増してくるとは思いますが、かといって世界の基軸通貨にはなりづらい。ウォーレン・バフェットが今年の株主総会で述べたように「基軸通貨としてドルの他に選択肢は見当たらない」という表現が妥当なように思えます。

ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンはドルの独占的な地位に対する懸念は、それが自然と “conspiracy theories and catastrophic thinking(陰謀論や破滅的な思考)”に陥りやすいために起こっているのではないかとし、ほぼ陰謀論と同列扱いしています。

中国では何か当局の気に入らない発言をした時には資産が差し押さえられる可能性もあります。個人投資家としては、主に生活をしている国の通貨(日本の場合は円)以外に保有する通貨としてはやはりドルを考えていれば良いと思います。

また、通貨に似たものとして、金と暗号資産についても選択肢としてはあり得ると思います。特に金については中央銀行の保有残高が増えており、これに伴って金価格も上昇しています。これらについては別の機会に考えたいと思います。

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MISA

MISA

第1子出産後、保育園に入れなかったため2011年から投資を開始。3児の母でワンオペ育児中。FXからスタートし徐々に時間を使わずにお金を生んでくれる資産の構築にシフト。インデックス投資、太陽光発電、海外不動産、国内不動産、個別債券、海外保険、FX。マイクロ法人運営。
保有資格:証券外務員1種、米国証券外務員、AFP、宅地建物取引士

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