アベノミクススタートからかなり時間がたち、少し前まで国内投資のタイミングは過ぎたのではないかと思っていたのですが、その考えを見直し始めています。
国内不動産投資をもう少し活用しようと考え始め、読んでみた本です。
創業から10年の会社で急成長されている点や、社長の藤原正明さんのSNSでの発言からプライドを持って仕事をされているような印象を持ったのでこの本を選びました。
目次
目次
第1章 不動産投資に成功する人と失敗」する人の違いとは?
不動産投資のメリットとデメリット、よくある失敗事例が書かれています。著者は不動産投資を「ローリスク・ミドルリターン、そしてロングリターン」であと位置づけています。
不動産投資のメリットとデメリット
- 空室・滞納・火災・金利上昇等のリスク
- 不動産価値の目減り
- 取引コストが高い
- 流動性が低い
- 毎月の収入が得られる
- 借入が可能
- 創意工夫で収益性が高められる
- 節税効果
- 管理運営を任せられる
確認事項
収益物件特有:レントロール、家賃滞納の有無、大規模修繕履歴、ランニングコスト、法定点検実施履歴、敷金返済債務、等
不動産取引全般:接道幅員、境界標や紛争の有無、旗竿地、第三者の敷地利用権、等
失敗事例
新築・中古区分ワンルームマンション、新築・中古一棟マンションそれぞれの失敗事例が紹介されています。人に誘われたり、高い利回りだけに注目して購入したケースで、正しく不動産の勉強をせずに表面の情報に惑わされることが共通点として挙げられます。
第2章 「エリア」安定したキャッシュフローを生み出すエリアの選び方
- 自分が住みたいエリアと投資で収益が出るエリアとは別である。
- 物件価格が2倍のエリアでも賃料は2倍にはならないため利回りは下がる。
- 長期的な賃貸需要を考えると首都圏か関西圏の収益物件に投資。
投資対象エリア
- 首都圏:都内中間から1時間~最大2時間のエリア。国道16号線の内側。
- 都心5区はCFが出にくいため、練馬区、北区、足立区、大田区、調布市などの都下、川崎市、横浜市、川口市、さいたま市。
- 関西:大阪、神戸、京都それぞれの中心から30分以内のエリア。首都圏より1~2%ほど利回りが高い。
第3章 「指標」正しい理論で投資を判断する
表面利回りに騙されず、見るべき指標を紹介しています。
総収益率(FCR)
総収益率(FCR)【%】=NOI(実効総収入)÷総投資金額(物件金額+購入諸費用)
空室や滞納損失を考慮した収入を購入時に投下した全ての金額で除算する。
この数字で投資判断をする。
イールドギャップYG【%】
イールドギャップYG【%】=FCR-K(元利返済額÷総借入金額(残高))
表面利回りと借入金利との差は本当のイールドギャップではない。
Kを小さくするためには同じ金利ならローン期間を長くとることが大事。
元金返済による純資産の増加を潜在CFと呼ぶ。
イールドギャップは新築で1.0~1.5%、中古で1.5~2.0%以上を目標にする。
内部収益率IRR
内部収益率IRR:正味現在価値がゼロとなる時の割引率
ローン期間を短くとった場合の方が売却時のCFは大きくなるが、保有期間中のCFは少なくなる。
CF総額はローン期間20年でも30年でも変わらない。
しかしお金の現在価値を考慮するとCFは手前に持ってきた方が良いためIRRはローン期間が長い方が高くなる傾向がある。
第4章 「物件」不動産投資はアパート・マンション一棟買いがベスト
CFを狙うなら中古の大型物件や新築の木造物件、節税目的なら中古の木造・計量鉄骨造の物件を推奨。空室率20%想定は過剰な負荷で良い物件を逃す可能性がある。
- 長期保有でCF目的:中古の鉄筋コンクリート造が低金利で長期の融資を受けられるメリットが際立つ。ただし、中古鉄骨造や新築木造で長期融資が受けられるならCFが出る。
- 節税:中古木造と中古軽量鉄骨が投資対象。融資期間は10年~15年が多く保有期間中のCFは望めない。
法人の活用
個人と法人の税率を考えると、課税所得が900万円を超えるようなら法人化を検討。出資の大部分を子に行わせる、無議決権株式を持たせるなどしておけば将来相続が発生した時に相続財産を減額できる。
個人の節税の場合は「税の歪み」を利用することで本当の節税が可能。不動産所得が総合課税で累進課税であるが不動産売却時の長期譲渡所得の税率は一律20%(復興税を除く)。仮に55%の高額所得者が個人で物件を保有した場合、減価償却した金額に対して55%の節税効果があるのに対して、売却時は累計の減価償却金額に20%の税率しかからない。大まかに言って減価償却の35%が節税できる。
物件を入れ替えながら資産を拡大
現預金が限られる場合は借入に頼り総投資額を大きくしていく必要がある。金融機関から多く融資を受けて総投資額を拡大していくためには一定の現預金が必ず必要。現預金を短期間でつくるには一定期間保有後の売却が有効で目標達成の最短方法。
第5章 「融資」利益最大化を実現する融資戦略
借入は時間を買うこと。
パッケージ型アパートローン
対象金融機関:オリックス銀行、静岡銀行、SBJ銀行、スルガ銀行、等
融資限度額例:(年収+購入する物件の年間満室想定賃料×72%)×8
オーダーメイド型プロパーローン
対象金融機関:都銀、地銀、信用金庫、信用組合、等
パッケージ型アパートローンは一定金額以上を借り入れると、それ以上の追加融資を受けることができなくなる。そのため、アパートローンを融資限度額までは利用しつつも融資上限のないプロパーローンへ早い段階で移行していく必要がある。(属性によっては1棟目からプロパーローンも可能)
自己資金の考え方
融資比率を上げるに従って税引き後IRRは上がる。ケーススタディでは自己資金が10年間で、全額自己資金の場合は1.24倍、フルローンでは4.28倍になる。
10年間で自己資金が1.5倍になる複利投資商品は、有価証券の税率20.315%とすると、利回り5.5%の商品。年利5.5%で運用できる金融商品はそれほど多くなく、不動産の場合はボラティリティも低い。
第6章 「管理」賃貸管理に特化した不動産会社をパートナーに選ぶ
サブリースでは数年ごとに減額交渉が入ることや、共益費は賃料に含めないとしてサブリース側が懐に収めているケースが多い。
入居者募集の際は、管理専業型の方が多くの仲介店舗に募集情報を流してくれる(自社で抱え込まない)ので早く入居者が決まる。
第7章 1棟から初めて複数棟で着実に資産運用する方法(事例)
- 老後資金を確保したい会社員
1棟目:新築木造物件、2棟目:中古RCリノベーション物件
税引き後CF320万円 - 高年収外資金融マンの節税
1棟目:軽量鉄骨造中古リノベーション物件、2棟目:木造節税特化型物件
税金の還付含めて税引き後CF1000万円超 - 医師の本業以外の収入確保
1棟目:軽量鉄骨造中古リノベーション物件、2棟目:RC中古リノベーション物件
1棟目の税金還付含めて税引き後CF920万円 - 中小企業経営者の本業以外の収益確保(法人に現預金2億円あり融資を受けやすいケース)
1棟目、2棟目:新築木造物件、3棟目、4棟目:中古リノベーション物件
税引き後CF1330万円
感想と今後の資産形成へのインプット
全体的に定量的な数値とその考え方の説明に注力が置かれています。第3章に記載の指標については理解しておいた方が良いと思いますし、一般的な書籍の数値分析よりも一歩踏み込んでいるのではないかと思います。多くのケーススタディを用いて想定のCFや節税効果を試算しています。
少し気になった点は第1章では株式投資について「プロ投資家でも勝ち続けるのは至難の業」と書かれてあったので、おそらく個別株のトレーディングを念頭において述べられており、ここは多くのインデックス投資家の意見は異なりそうです。
それから、最も参考になったのは第5章の自己資金の考え方の部分。
このケーススタディでは融資割合70%、32%の自己資金投下の場合10年間自己資金は1.53倍になるので株式やその他の投資よりパフォーマンスが良い、とされています。世界株5%、米株7%と考えると10年で1.6~2倍になるのでそのレバレッジではそれほど優れたパフォーマンスとは言い難いかもしれません。
では融資割合でIRRがどう変わるかということですが、以下のような変化でした。
融資比率80%:税引き後IRR6.46%
融資比率90%:税引き後IRR11.08%
融資比率100%:税引き後IRR29.12%
世界株、米株のパフォーマンス期待値を超えるためには90%以上の融資比率が望ましいところですが、昨今は一般的に2~3割の自己資金が求められるようなので、ここは実際の案件次第ですね。物件自体でCFが回るようであればフルローンも検討可という銀行の方もいらっしゃいました。
また、税前利回り5.5%の商品は昨今の金融市場では債券でも存在しますので、もしかするとレバレッジをかけられないようであれば債券で長期に固定した方が良いかもしれない、と思います。
節税についてはまた別の話になりますので、こちらはこちらで見ていきたいと思います。